
『真田丸』で描かれた“黒秀吉”はどこまで真実に近いのか?
エンターテインメント作品のキャラクターとしての秀吉と
歴史上の人物としての真実の秀吉
最新の研究成果を踏まえて真相に迫る
近年、日本史の俗説・定説の見直しが行われるなかで、従来の豊臣秀吉のイメージに対しても修正が進んでいる。
低い身分の生まれながら、日本の最高権力者の地位まで昇りつめたドラマチックな生涯は、格好のエンターテインメントの素材であり、死後様々な伝説が創作され、膨張しつづけてきた。
そんな秀吉の虚像と実像を比較検証し、秀吉や戦国史の中級者というべき読者層に向けて発刊されたのが本書である。
14の章で秀吉の生涯を解き明かしていくのだが、近年の論点にも踏み込んだ解説が為されており、現時点での秀吉論を整理した概説書とも言える。
主なものを挙げれば、
・秀吉の出自と信長への仕官まで
・中国大返し
・なぜ関白の地位に就いたのか
・文禄慶長役(朝鮮出兵)を行った理由
・秀次切腹事件の真相
・刀狩、惣無事(令)の実態
・キリシタン禁令の目的と実態
などが解説されている。
司馬遼太郎の小説で広まった歴史観が「司馬史観」と呼ばれているが、太閤記とそれに影響を受けた作品から生じた秀吉観は「太閤記史観」ともいうべき影響力で定着している。
秀次切腹事件に関しては金子拓氏が検証しているが、話題の書「関白秀次の切腹」の著者である矢部健太郎氏の説を基本的には首肯しながら、細かい疑問点を挙げている。
権力者がどういった自己像を広めたがるのか。庶民がどのようなヒーローを欲するのか。国家がどのようにヒーローを利用し、英雄観が形成されていくかなど、単に秀吉という個人にとどまらず、日本史のなかの英雄像という視点で読んでも興味深い一冊といえるだろう。
※NHK教育の「日本史」では、秀吉が東アジア海上貿易ネットワークの中心に位置する寧波に移り、東アジア海洋帝国を築き上げる意図があった説を図入りで紹介していた。いかにももっともらしい構想ではあるものの、これも秀吉の大言壮語かリップサービスか誇大妄想か‥‥といった“本気度”がわからない限りなんとも言えないような‥‥。