古代アレクサンドリア図書館と視聴覚室の収蔵資料目録

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働かないアリに意義がある 長谷川英祐(著) KADOKAWA

time 2016/09/21

働かないアリに意義がある 長谷川英祐(著) KADOKAWA

「働きアリの7割は働いていない」
衝撃的な新説で昆虫学会のみならず
自分のような怠け者にも福音をもたらした
ベストセラーの文庫版

 
著者は進化生物学者。
ハチやアリのような個体別に役割が分かれている集団の生き物を“真社会性生物”と呼ぶそうです。
昆虫のみならずカビ類の粘菌にも存在するそうで、南方熊楠も研究していたそうな。

ハチやアリのコロニー(ひとつの巣の集団)はほとんどがメスで構成されており、「drone(ドローン)」とはオスのミツバチの俗称。養蜂家からすると、働かないのに蜜を消費する“厄介者”という意味だと序章からトリビア連発。ミツバチのオスは一ヶ月程度の寿命でまったく働かず、交尾のためだけに生まれてくるという(人間にもこういう男がいますな)。

タイトルのアンサーは1~2章で早々に示されてしまう。働かないアリは怠けているのではなく、より働き者に仕事を奪われてしまっている状態なのだという。要するに補充要員が多い組織ほど安定性が高いということらしい。しかしこれも仮説‥‥というより真説だと証明することが難しい、ということなのであろう。

しかも2割くらいは一生働かないままらしい。甲子園大会で見られるような、ずっとベンチを暖めていた選手が最後に代打で出場、のように花を持たせてもらうことはない模様、アリだからね。

それを発表した時は「ヒマなやっちゃ」なんてことも言われたものの、実際は過酷な研究で血尿を出すスタッフまでいたとか。補充要員のいないラボは大変なのだ。

他にはアリはスキルアップしない。道を間違える(トンマな)アリが新しい餌を見つけたりするので、これはこれで意味があるといったオモシロ知識を身につけることができた。

3章からは、それではアリやハチのややこしい社会はなぜ成立したのか? という謎解きの仮説をいろいろと紹介。アリやハチの遺伝の特性によって、子供よりも妹のほうが自分に遺伝子が近いために優先しようとするのではないかとか、タダ飯食らいのフリーライダー問題、さらにクローン生殖を行うアリの謎過ぎる生態などを知ると、社会実験系のSFを読んでいるような気分になる。手塚治虫が幼少の頃から虫に惹かれ、ペンネームにまで付けたのはこういった興味からであろう。

虫と人間の違いは、社会的評価が適応率に影響してくるといったところか。人間も真性だか仮性だかわからないとはいえ社会性生物の端くれなのか、個人的な欲望を満たすよりも、より多くの人の賞賛が得られた時のほうが、脳がより大きな喜びを感じる。という記事を読んだことがあるが、それが事実ならば、そういう個体が多いコロニー、人類学でいえばバンドのほうが生き延びてきたということなのかも?

 
自分は子供の頃から釣りをやっていたので、“生物は環境に適応していく”ことは結構納得できる。同じ種の魚でも、棲んでいる場所によって外見から食性までかなりの違いが生じるからだ。

しかし、この本に登場するアリの複雑な社会を知るほど、どのような細かい変化を経て現在の生態に適応してきたのかと思うと不思議極まりない。

今はジェルを使ったアリの巣観察キットが販売されているので、子供の頃のようにアリを飼って観察したくなってしまった。だが、生来の面倒くさがりやなのですぐにズボラになり、メンテナンスもテキトーになって中のアリにとって迷惑な飼い主になりそうである。そして「働かない働きアリ」に「この怠け者! ちゃんと働けコノヤロー」と説教されてしまうであろう、嗚呼‥‥。

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