古代アレクサンドリア図書館と視聴覚室の収蔵資料目録

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はにわ屋高田儀三郎聴聞帳 金井塚良一(著) 新人物往来社

time 2016/10/02

はにわ屋高田儀三郎聴聞帳  金井塚良一(著) 新人物往来社

古墳から“盗掘”された埴輪の蒐集家というよりも
“非公認出土品修復師”というべき男の
文化財保護が未整備だった時代の証言を綴った
古代史発掘ミステリーロマンとしても読める貴重な一冊

 
古代史や遺跡に特に興味がない人でも、小中学校の社会見学--課外授業で行った博物館や資料館の埴輪を見たことがあると思います。

ガラス越しによく見ると、埴輪たちはツギハギだらけで、苦労してようやく完成したパズルのようだと感じたことを思い出されたでしょうか? そして「埴輪は完全形で発掘されるもののほうが少なく、見つからなかった部分は推定による復元を行いました」といった学芸員の解説が始まるわけですが、するとプラモデルや工作を愛好する男子生徒は「埴輪の復原とかって面白そうだな」と俄然興味が沸いてきたりするわけですナ‥‥肝心の古代史の勉強はそっちのけで。

本書タイトルの高田儀三郎という人は、「埴輪愛」「復原魂」が嵩じるあまり、まだ“文化財保護”というモノが意識も整備もされていなかった戦後の時代に、発掘される前に破壊されていく古墳や遺跡から出土品を集め、あるいは“掘り師”として盗掘を行っていた人々から埴輪を中心とする出土品を買い取って復元。蒐集家や博物館相手に販売も行っていたという当時の埼玉では知る人ぞ知る「はにわ屋」。

こう書くと「盗掘品で稼いでたのかよ!」と悪いイメージで捉えられてしまうかも知れませんが、当時の日本は高度経済成長期。開発ラッシュで発掘調査もされぬまま消えゆく運命にあった埼玉の多くの古墳の貴重な出土品が残されているのは、この人の功績も多大だと著者の金井塚先生は語るのであります。とはいえ、儀三郎さん自身は盗掘はしなかったと語っておられますので。しかし、「神武」景気によって貴重な「古墳」や遺跡が続々と破壊されてしまったのはナントモ皮肉。

今の日本では貴重な遺跡の盗掘なんてトンデモナイ、もしバレたら「炎上」する可能性が多大ですが、昭和40年代に文化財保護法が拡充される前は、「生活費を稼ぐためにまた塚掘りしてくるか」という掘り師が結構いたようです。文字通り「お宝探し」が面白いのも事実でしょうし。この本にはその具体的な手法まで述べられており、昭和30年代くらいまでは世の中けっこうアバウトだったんだなと再認識させられます。

(余談ですが、こういう具体例を知ると「昔の日本人は国民みんなモラル意識が高く、悪いことをするような人はほとんどいなかった」といった「昔は良かったノスタルジー」が幻想に過ぎないことがわかりますな)

当然、現在は重要文化財として博物館に展示されているような当時~以前の出土品のなかには、実は出自の怪しいものがワンサカと含まれているわけで、海外の美術館に収蔵されているメイドインJAPANハニワの流出経路にも話が及ぶ。

群馬県出土とされていた国指定重要文化財「十鈴鏡」(現在は歴史と民族の博物館所蔵)が、実は埼玉の掘り師による発掘品だったなどの懺悔話から金井塚氏が追跡調査を行い、その過程が時系列的に語られていく構成のため、考古学ミステリー的な面白さまで加わってくる。

その流れから最後は、国立博物館所蔵「狩猟文鏡」と深谷市の雷電寺にある石碑の謎が絡み、好奇心を高揚させられた末に‥‥ミステリー小説なら拍子抜けだろうが、調査結果としては学問の奥深さを思い知らされる、といった結論を迎えます。

“遺跡盗掘”という怪しげな世界の貴重な証言を遺した稀書なんですが、意識して学者と庶民を対比させたような小説的な語り口にも引き込まれるものがあります。宮本常一の紀行文を読んでいるかのようだ‥‥などと思っていたら、あとがきの著者の感謝の弁に現在は作家である高橋千劔破氏の名前が出てくる(当時は編集者)。

対談本といっても、著者が自ら書くものと、構成者がテープ起こしから実際の執筆の多くを担う本があります。もしこの本が後者だった場合は、構成者が意識してミステリー小説的な構成と語り口で書いたのではないか‥‥その場合、担当編集者が自ら執筆を行う場合もあるし、ライターに依頼しても編集者の意向が強く反映されるので、「考古学の世界をミステリー小説のように面白く読んでもらう」コンセプトが内容にハマッた成功例といえましょうか。
また、個人的に特に印象に残ったのが、未盗掘古墳の石室(遺体が葬られている古墳内の空間)を初めて開放した時の情景。

高田「なかが真っ白なんです。その白いのも二、三時間たつと全部消えるんだそうです。石室のなかに下がっていた、ベールみたいな白い細かい木の根は、だんだん時間が経つにしたがって消えていくんだそうです」
金井塚「そうなんです。酸化して、みるみるうちに赤くなっちゃうんですね。人骨も最初は真っ白なんですね。それが見ている間に酸化して赤くなっちゃう。鏡もそうですよ。実に緑がきれいですよ」

千数百年もの間、密封されていたタイムカプセルが外気に触れ、宝剣玉類が瞬時にして劣化していく神秘的な光景を一生に一度でも見てみたいものだが、こればかりは考古学徒だけに与えられた特権か。せめて映像でも‥‥と思うものの、未だにそのような未発掘古墳があるのかどうか‥‥。現在は重要な遺跡ほど発掘するよりも現状保存で‥‥という傾向のようですしね。

 

ーー余談ーー

他にも同じような初発掘古墳の石室内部が急速に劣化していく様子が語られていた本を読んだ記憶がある。その本では、昔話の浦島太郎のラストは古墳発掘者の経験が取り入れられているのではないかと推測していて誠に興味深かったのだが、残念ながらタイトルを失念してしまった‥‥思い出して入手することができたらまた書きます。

※書いたあとに記憶を探りつつ検索していたら、コレかも知れないという本に思い当たりました。『平凡社選書 墓盗人と贋物づくり―日本考古学外史 玉利 勲【著】』確認でき次第、追記するか別項で紹介します。

単行本 – 1994/10刊行

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