古代アレクサンドリア図書館と視聴覚室の収蔵資料目録

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「ヨコハマメリー」の記憶

time 2018/10/11

昨日、「マツコが日本の風俗を紐解く」
という番組で「ヨコハマメリー」が紹介されていた。

自分も十代の頃、メリーさんを何度か目撃したことがある。当時は横浜市民だったので。

 初めて見たのは高校一年の頃、横浜に引っ越してきて間もない自分が、とりあえず仲良くなった同じクラスの奴に伊勢崎町を案内してもらっていた時だった。

 確か土曜日だったか‥‥人で溢れる伊勢崎町のモールを歩いていたら、前方からモーゼが海を割るように人ごみを割りながら歩いてくる人物が現れた。

 あれッ、なんだ!? と驚きつつ視界に入ってきたのは、顔を真っ白に塗り、西洋人形のようなドレスに身を包み、日傘を差して歩く小柄な老婆の姿だった。衝撃的だった。

 隣を歩いていた友人に「あれは白粉ババアとかメリーって呼ばれてるんだよ。横浜じゃ有名なんだよ」と解説され、さすが横浜は都会だな、こんな人が本当にいるんだな!? と、それまで海と畑しかないような田舎町で育った自分には、非常に強いインパクトだったことを覚えている。

 当時はインターネットなど影も形もない時代だったので、気になって他の同級生に聞いてみても「元売春婦らしい」という噂くらいしかわからず、変人なのか、それともメンタルに何かを抱えた人なのかもわからないままだった。

 その後も伊勢崎町で何度か見たが、ハタチで東京に引っ越してからはほとんど伊勢崎町に行くこともなくなり、メリーさんの謎は解き明かせぬままであった。

 その後、ドキュメンタリー映画になったというので観に行ったら、これが非常にイイ映画で、永登元次郎という元男娼のシャンソン歌手をはじめ多様性が多様すぎるような人生を生きてこられた方々がメリーさんの生涯を証言していくのだが、それを通じて横浜・横須賀の裏の戦後史ともいうべきナラティブが次々と語られて、メリーさんに留まらず、日本の裏戦後史の証言ドキュメンタリーとも呼べる作品になっているのだ。

 そんな人々のなかで生きてきた永登さんの歌うシャンソンがまた切なく、面白ろうてやがて哀しき‥‥と、気が付けば映画そのものがシャンソンのよう‥‥といった映画なのであった。

 メリーさんの生涯に関する情報はネットでもいろいろ見かけるが、今なら「都市伝説」と呼ばれてしまうような人生を、あの時代に自らの意思で生き抜いた人の心中を思うと何とも言えない気もちになる。

 今の時代にメリーさんのような存在がいたとしても、ネットで話題になり、Youtuberやブロガーを名乗る者たちがアクセス数稼ぎに居場所を突き止めてその姿をネットに得意気に晒し、メディアでも話題になって多くの人間が正体暴きにやっきになることだろう。自分も仕事柄、そういう行為をやっていた可能性もある。

 他人に踏み込まれたくない過去をひとり抱え、「異形の伝説」として生きることを選択した人間が、本人が望まない他者の干渉を遮ったままで生きていくことができなくなる‥‥それが「高度に発達した情報化社会」がもたらした世界の姿でもあるということか。

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